配慮なき意思決定により泥沼の抗争と化した成田空港開港。農民、過激派が一体となって権力に挑んだ「成田闘争とはいったい何だったのか」。本書の主人公ともいえる反対運動の先頭の立った戸村一作(反対同盟委員長)は敬虔なクリスチャンであったが、ある日、豹変したかのように過激セクトと手を結び、流血の惨事を繰り返す反対運動の先頭に立つようになった。何が彼を変え、呉越同舟であった過激派各派がまとまることができたのか。
「成田闘争」は、クリスチャン・戸村一作を闘争のシンボルとして担いで闘争に参加した農民たちと、農民たちへの支援に集結した中核派をはじめとする過激各派の、日本政府に対する「成田の乱」だったのではないか。日本政府、空港公団は新空港の建設を”大義の御旗“として、反対派農民の意向を無視し、空港建設を推し進めた。成田闘争は若きクリスチャン・天草四郎を担いで徳川幕府に抵抗した「島原の乱」に通じる戦後最大の反乱ともいえる。
本書は、佐藤内閣の杜撰な意思決定から暫定開港、反対同盟分裂に至るまでの軌跡を豊富なエピソードに基づいて活写するドキュメント。一枚岩ではない当局の思惑、反乱者たちの内紛、裏切り、公団側の分裂工作、相次ぐ衝突による犠牲、対話への道など、波乱万丈の物語である。
筆者は1966年から78年の暫定開港まで12年以上にわたって成田空港問題を取材し続けてきた唯一のジャーナリスト。紛争現場で負傷し、学生の死を目の当たりにするなどまさに現場ですべてを見てきた記者で、現役生活の大半を成田取材に費やしている。